現在、インドの楽器として活躍している楽器には、実は外国生まれのものもたくさんあります。南アジアの最終回は、外からやってきてインドで生まれ変わった楽器たちにスポットをあてましょう。
インドの伝統的擦弦楽器サーランギー(→解説/→カラー写真)は、演奏も制作も難しいので、生演奏が聴ける機会も少なくなってきました。植民地時代、欧米人のもたらしたフレットがないヴァイオリンは、大量生産できることもあり、間もなく南インドで最も人気のある弦楽器の一つとなりました。ただし、旋律用とドローン用に分けて調律を変え、構え方も胡坐をかいて胸にヴァイオリンを立てかけたようなスタイルで弾くようになりました。今日ではムリダンガムを従えて堂々とソロ演奏を行ったり、歌の微妙な旋律ラインをなぞるように伴奏したり、南インドの古典音楽には欠かせません。
長いイギリス支配の間には、キリスト教の宣教師と共に19世紀にドイツで発明されたふいごつきの手漕ぎオルガン、ハルモニウムも伝えられました。オルガンといってもリコーダーが並べられたようなパイプオルガンでなく、日本の笙のように吹いても吸ってもなるリード(→写真を見る)が箱の中に並べられているのです。この楽器は基準音を得るのにとても重宝され、またたく間に全土に広まりました。今では古典だけでなく、各地の民謡や民俗音楽、大衆歌謡や宗教歌の伴奏などオールマイティーの大活躍です。ドローンをならすためのボタンが数個加えられ、旋律を演奏しないでドローンだけを鳴らし続けたりすることもできます。
日本人は、どちらかといえば外来の音楽や楽器を取り入れては日本的に消化・洗練させるのが得意ですが、何とはるかインドにわたった日本人の発明楽器があるのです。インドではバンジョー、ブルブル(声の良い鳥の名)タラング、あるいはテーショーコトなどと呼ばれています。もうお分かりですね。名古屋の森田吾郎が考案し、大正元年に全国一斉に発売されたという大正琴です。どのような経路をたどったかはっきりわかりませんが、比較的すぐにインドに伝わり、胴体を大きくしたり、調弦を変えたり、時には弦を増やしたり、鍵盤や電気的な増幅装置までつけたりと手が加えられ、まるでエレキギターみたいな音を出す華やかな楽器に生まれ変わりました。タイプライター型だけでなく、オルガンのような鍵盤をもつもの、箱を共鳴胴としていて蓋を閉めるとそのまま持ち歩ける携帯型のもの、棹と胴を持つギターのような形のものなどさまざまなヴァリエーションがあります。
日本人は外来の楽器でその地の音楽を演奏しようと考えますが、インドの人々はさまざまな楽器に手を加えてあくまでインドの音楽を演奏しようとするので、インドの楽器の種類はまだまだ増える一方です。そんな楽器の宝庫インドから、ほんの一部の楽器たちをご紹介してきました。 次回から、インドともつながりの深い西アジアや中央アジアに向かいます。
■筆者提供の音源(試聴にはミッドラジオプレーヤが必要です)
◎電気大正琴(ブルブルタラング)の演奏。1985年、北インドで録音。
◎タブラーと共に歌の伴奏に使われているハルモニウムの間奏。1996年、北インドで録音。
■参考リンク
◎インドの伝統的擦弦楽器サーランギーの演奏姿勢が見られるページ
◎音域を広げるために考案されたダブルネックのヴァイオリン
◎ヤマハ大正琴のページ
◎大正琴とは(安原楽器のページ)
◎森田吾郎と大正元年に発売された大正琴(同上)
◎インターネット大正琴教本(みやび大正琴研究会)
◆参考資料一覧
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