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◆東アジア(4)
   
「蘆笙(ろしょう)と恋」
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執筆: 尾高 暁子


貴州省の春節に催される歌掛けで蘆笙をふくミャオ族の少年 なたは歌や楽器で、これは、と思う人の心を射止められますか。「万葉時代じゃあるまいし、恋の歌なんて口ずさめるわけがないでしょ」、とわが身の芸のなさを嘆くでしょうか。それにしてもうらやましいのは、西南中国にくらす少数民族のひとたちです。彼らはいまでも歌で愛や自然をかたり、人生のふしめふしめに、楽器をたずさえて歌いおどるのですから。

南省や貴州省、広西チワン族自治区など西南部は、中国でも民族構成がもっとも複雑な地域として知られ、土着の人たち、タイ人やミャンマー人に近い米づくりの民、チベット高原から南下した人たち、東から移住した焼畑をする人たちなどが生活しています。この一帯から東南アジアにかけて分布する楽器の代表格といえば、やはり笙(しょう)でしょう。笙とは、吹いても吸っても音の出るリードを竹や木の管にうめこみ、これを共鳴器にさしこんで吹く楽器です。単旋律も和音も吹けて、お祭りの踊りや民謡の伴奏に欠かせませんが、一般に男性が演奏します。楽器のつくりからすると、西南中国には二種類の笙がみられます。一つはひょうたんの共鳴器にリード管をさしこむ葫蘆笙(ころしょう)。もう一つは、松や杉材の長い吹管にリード管をはさみ、これを樹皮でぐるぐると巻いた蘆笙(ろしょう)です。笙とひとびとの付き合いは長く、雲南で発掘された春秋戦国時代の墓からは、ひょうたんの形を模した青銅製の共鳴器つきの葫蘆笙がみつかりましたし、土中に埋まった銅製の太鼓には、 葫蘆笙を吹き踊る人たちの姿が描かれていました。そして、まるでこの絵からぬけだしてきたように、人々は今も葫蘆笙や蘆笙で舞い踊ります。

貴州省の春節に催される歌掛けに晴れ着で参加したひとびと 正月をむかえた貴州省をおとずれたとき、苗(ミャオ)族の村落をはずれた小高い丘では、歌の掛け合いの真っ最中でした。蘆笙を吹きながらステップを踏みしめる少年(QuickTime 1509KB)もいれば、女の子と歌をかけあう子もいます。十四、五才のくったくのない若者にまじって、一回りは上と思える世代の姿も目につきました。祭りの直後、母娘らしい二人に近づいて話しかけたところ、女の子はこう答えたのです。「お父さんはずっと前に亡くなったので、お母さんも新しい友達をさがしに来たけれど、今日は見つからなかったらしいの」。晴れ着から普段着に着がえた娘とふたり、母親は淡々と丘を下ってゆきます。母娘の後ろすがたは、「歌かけのロマン」などという、現代人のノスタルジーとは無縁なものに映りました。もっと切実で大らかな営みが音楽とともに生きている。麗々しい形容を排してこう記すしかない、と、そのとき私は感じたのです。

中国地図

■筆者提供の動画と写真
蘆笙(動画)(QuickTime 1509KB):貴州省の春節に催される歌掛けで蘆笙をふくミャオ族の少年。
祭りの風景(写真):貴州省の春節にプイ族の集落で催された龍舞。手前で蘆笙を吹きながら踊る男性は、ねんねこばんてんで人形を背負い女装している。

◆参考資料一覧


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